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現役エンバーマーへ聞いた|故人のエンバーミングは必要?不要?

2024.9.17

  • 葬儀
  • 終活

はじめに

エンディング産業展のトークセッションでも取り上げられた「エンバーミングって本当に必要なの?」という話題について、改めて現役エンバーマーの中太諒(なかだい りょう)さんにお話を伺いました。 業界関係者がSNSで発信するなど、いろいろな意味で実は話題となっているエンバーミング。中太さんはおくりびとアカデミーを卒業し、納棺師としての実務経験もありながら、現在はエンバーマーとして活動されています。そもそもエンバーミングって何なの?という話からどういう人がエンバーミングを考えるべきなのか、昨今のサービス提供のあり方など様々な疑問を聞いていきます。

プロフィール

紹介:中太 諒  特殊・修復ケースを専門としており、納棺師・エンバーマーどちらの処置にも精通している。おくりびとアカデミー第1期卒業生。 納棺・湯灌専門会社にて、エンバーマー兼納棺師として従事。その後独立し、フリーランスのエンバーマーとして東京/千葉/仙台のセンターで活動。 現在は、おくりびとアカデミーエンバーミング部署のエンバーマーとして年間300件処置を行っている。  保有資格  おくりびと®納棺士/IFSA認定エンバーマー/IFSA認定スーパーバイザー/特別管理産業廃棄物管理責任者/特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者/有機溶剤作業主任者/葬祭ディレクター2級

エンバーミングについて

ーー一般の方に向けて、改めてエンバーミングとは何なのか教えていただけますか?特に納棺師との役割の違いについてもお聞かせいただきたいです。 中太 エンバーミングとは、ざっくり言えばご遺体を長期的・衛生的にきれいな姿に保つ「防腐・殺菌・修復」の技術です。外科的にはホルムアルデヒドなどを主成分とする保全液を動脈より注入し、体内を循環させたりします。実際はまったく違う行為ですが、人工透析をイメージすると、想像しやすいと思います。 最近は火葬の予約が取れなかったり、日程に余裕が欲しいというケースから依頼をされる方が増えていると思います。 納棺師は映画『おくりびと』のイメージの通り、一般的には「納棺の儀」という形でご遺族とともに旅支度を整える役割があります。死化粧(しげしょう)を施すのもそうですが、ご遺体を清めたり(清拭)ドライアイスを当てるなど、顔や体を綺麗に、もしくは自然な状態に整える役割がメインですね。 根本的な防腐はエンバーミングでないと難しくて、納棺師を呼ぶ=ご遺体が必ず綺麗に保たれると誤解されがちなんですが、そうではないんです。 ーーそうなんですか。イメージでは胃や腸にある体液から腐敗が進むからドライアイスで体を冷やしておけば大丈夫なのかと思ってましたが、違うんですか? 中太 はい。そもそもご遺体が崩壊する要因は、火葬など意図的なものを除けば大きく自家融解と腐敗の2つに分けられます。 ざっくり説明すると、自家融解は体内の酵素による分解で、人間が自然に朽ちていくような機構です。腐敗は微生物等によって体内の有機物が分解することをいいます。お腹の中の食べ物、食物残渣なんていいますが、そういったところから始まっていきます。 一般的にドライアイスが体に当てられるのは、腐敗を抑えるためで、ご遺体を3〜5度以下に留めておくと効果があります。 エンバーミングが騒がれるようになってきた大きな要因として、後者の腐敗において、劇症型変化を起こす腐敗というのがあります。クロストリジウム属の細菌が原因と言われていて、私たちはティシューガス(ティシュー=組織)と呼んでいます。お腹が緑色になって膨らむといったような単純な変化ではなく、全身に握雪感がでてきてます。要は言葉通り、体の組織(ティシュー)からガスが発生して急激に腐敗が進むようなイメージです。 これが出てしまうとご遺体も半日で体感1.5倍くらい膨れてしまったり、その状態からでは、エンバー処置をしようと思っても、それ以上酷くならないようにする程度の処置しかできません。 しかも厄介なことに、冷凍、高温、乾燥、消毒(アルコールなど)に耐性がある、かなり強い菌なのでドライアイスを当てるだけでは不十分なんですよ。 また、想像しやすいと思うのですが、ガスにより組織がスポンジ状になるので断熱効果が高くなり、ドライアイスのききが悪くなります。 しかもこのガスが発生するかどうかは故人の見た目じゃ中々わからないので、運が悪ければ一気に腐敗してしまうといったことになります。 それ以外にも、ドライ(アイス)が直接あたっている場所はともかく、自宅でエアコン効かせたとしても顔まで低温になるかと言えば怪しいと思いますし、そうなれば顔回り、特に口腔内の有機物に懸念が残ったりします。 エンバーミングはそういった変化を防ぐ保険のようなものですね。 ーーそれは怖いですね。私も親族の葬儀の打ち合わせに同席したことがありますが、葬儀社の担当者さんからはそのような話はありませんでした... 中太 葬儀社に務めている方や納棺師の方は、ご遺体を綺麗に整えることや、葬儀についてはプロです。ただ、死体現象については、納棺師の方でさえも完璧じゃないことがあるのではないかと思います。 私が新人納棺師時代、先輩と一緒に納棺の儀をお手伝いさせていただいた葬家で、いつもどおりしっかり処置を行ったのに急激に故人様が腐敗してしまったことがありました。 納棺の儀を行った当日の夜に呼び出され現場に駆けつけると、家の中が凄い腐敗臭につつまれており、故人様が急激な変化をおこしていました。後日、「中太君のドライの当て方が悪かった」と先輩から指摘されて、ご遺族の大切な人をこんなに変化させてしまったのは自分の失敗のせいなんだと、とても辛かったのを今でも覚えてます。 プロとして働いている以上言い訳はできませんが、この知識があれば事前にお客様にリスクを説明することもできたとか、違う提案もできたんじゃないかと考えてしまいますね。 ーー納棺師の方が仰ることを安易に信じるのは危険な場合もあるということですか? 中太 故人様に触れている数だけで言えばエンバーマーを上回る方ももちろん多くいらっしゃいますし、培われた経験は蔑ろにできません。ですがティシューガスになる人・ならない人を判断することは難しいと思います。というか発生しないという根拠はないはずなので、絶対と言い切るのはエンバーマー的にはどうかと思ったりもします。 あまりないとは思いますが、可能性だけならピンセットに細菌がついてて別の人に同じ器具を使ったら伝染りますし、お風呂の水を飲んでしまっていたり、事故で外傷があればリスクも上がります。敗血症など感染が起きている人、床ずれで筋組織に傷ができた人など、可能性は言い出したらキリがないです。 ーーどういう人がエンバーミングをすべきかというのは、あるのでしょうか? 中太 べき論があるかないかで言えばないですね。 リスクはさておき、エンバーミングは当然外科的な処置になる=体にメスを入れる必要があるので、亡くなってまでそんなことを故人にすることに精神的な負担と感じる方も当然いらっしゃいます。 他にも体が硬直する、腐るのは自然なことなので、敢えて処置をしないというのも当然アリです。 亡くなってまでそんな事する必要があるのかという意見も当然理解できます。 一方、海坊主の由来もこの腐敗で体が膨らんでしまった人だという説もあるくらいですし、膨らんだり変色してしまった状態で故人とお別れをするのは精神的に結構くるんじゃないかとは思います。 匂いも当然出てきますし、何より見た目の変化量がとても大きいです。 最後の臭いと見た目の記憶がそういったものになってしまうのは、良くないのではないかとは思ってしまいます。 腐敗によって大きく変化が進んでしまうとそれからエンバーミングを依頼してもどうにもなりませんし。 かなり痩せ(羸痩)てしまったおばあちゃんでは、明らかにタンパク質が少なく、腐敗リスクは低そうだなと思うかもしれません。しかし、ティシューガスのリスクは判断できないでしょうし、ドライアイスが当たっていない箇所の腐敗リスクには対応しようがないです。ティシューガス発生の機序はイフサ(IFSA:一般社団法人日本遺体衛生保全協会)でも完璧には、わかっていないはずです。

ーー最近はエンバーミングのニーズも高まっていると思いますが、その点についてはいかがですか? 中太 難しいところですが、正直に言えばもっとフェアに情報提供されてほしいなとは思います。そもそもご遺族からしたら葬儀社の担当さん以外にその場で頼れる人もいないと思いますから。 ただ、本当にそういう腐敗や感染のリスクを踏まえて提案をされている葬儀社の担当さんもちゃんと知ってますし、起きうるリスクの話をしないのは、良くないんじゃないかと思います。 きちんとリスクの説明がされていれば納棺師や安置施設の担当者など、そこで働く方たちへの責任の問われ方も変わってくると思いますので。 何度も言いますけど可能性を知らない、知らされない状態はフェアではないと思いますし、改善されれば良いなとは考えています。 ーーエンバーミングが今後葬儀の形を変化させていくことはあると思いますか? 中太 例えば亡くなってすぐエンバーミングを依頼する流れができたとしたら、お別れまでの時間的猶予ができるので、先に葬儀をして、後日親しい人とお別れ会を行うとか、いろんなお別れの形ができても良いんじゃないかとは思います。 もちろん宗教的なことはそこまで詳しくありませんし、遺族の忙しさなど個別のケース度外視な意見ですが。 実際エンバーミングを依頼された方で、故人と自宅で過ごすうちにネイルをしたいねという話になって、生前依頼していたネイリストさんを呼ばれたこともありました。 あと、事業者さんから嫌がられるかもしれませんが、先にエンバーミング処置を施し時間に余裕が生まれれば、相見積もりをとるという表現が正しいかはわかりませんが、複数の葬儀社からしっかり提案を受けて納得のいくお別れができるんじゃないかとか考えたことはあります。時間的制限の中でバタバタと提案されるがまま葬儀をするのではなく、様々なお別れの方法を考え、実は香典で大きな葬儀を開いても費用は回収できるんじゃないかとか、ゆっくり家で葬儀をするとか、考える時間が増えるのは良いんじゃないかと。 ーー不勉強ですみません、エンバーミングをしたら何日程度一緒にいられるものなんですか? 中太 日本国内では、IFSAの自主基準に則っては50日としています。他にも先程出た研究の話や詳しいことが載っているので、興味がある方は是非調べてみていただきたいですね。 ーー現役のエンバーマーとして、仮にご自身が遺族の立場になったらエンバーミングをすべきかどうか、どのように判断するのが良いと思いますか? 中太 正直難しいですけど、「変化を許容できるかどうか」が大事だと思います。 変化の仕方も人それぞれで、人の身体の話なので100%はどこまでいっても難しいはずですし。 私が母を亡くしたときは腐敗のリスクなんて知りませんでしたので、そういう意味で、「それを許容するに足る情報」が葬儀社さんから伝えられる状態になると良いなとは思います。 実際知っていれば、母にはエンバーミングを選択したかったと考えています。 ですが知った状態の今、父がもし亡くなってエンバーミングを依頼するかと言えば、自然な感じで良いと思っているので今はそのつもりはありません。ただ、自宅に帰りたいという話があって、自宅安置となれば匂いのリスクがあるので依頼すると思います。臨機応変にリスクに併せて選択していこうかなといった程度です。 エンバーマーはIFSAという団体によって技術や知識の水準を一定以上に保っていますし、日々勉強もしてます。ご依頼を頂いたらリスクは抑えられると思いますが、やらなければいけないということは絶対にありませんし、決して金額も安くはないと思います。 お別れまでの間に大切な人が腐敗するリスクをどう捉えるか、 最終的にはご遺族がフェアな形で選択できれば良いという風に思っています。

おわりに

エンバーミングサービスとその必要性に関する正しい知識はまだまだこれから認知されるところではないでしょうか。終活相続ナビでは葬儀社選びや終活についてのご相談も承っています。気になることがあればいつでもお問い合わせください。

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